少し前、友人Sと友人Kとの会話の中で、180SXを購入したときの話題が出ました。
いつものことなのですが、話題のネタを見つけると、そのネタを元にだんだん妄想話を広げて行って、あることないことを想像して楽しむことがあります。
そんな雑談をきっかけに、ひとつの物語が誕生しました。
『名もなき星へのラブレター』
この物語は、高井優希が40を過ぎて180SXを購入したことをネタに、友人Sが即興で考えてくれた話をベースにして、友人Kがひとつのストーリーになるように編集してくれたものです。
友人たちは「半分フィクション、半分ノンフィクション」と言っていましたが、さて、一体どの辺がノンフィクションなのでしょうか…気にしてもしょうがないので、そこは考えないようにします。
作中で、ワンエイティが若い女性に擬人化されているように見えますが、これはレヴォーグをクールな兄貴っぽい存在にしたかったから、だそうです。(友人S談)
それでは、『名もなき星へのラブレター』、全3話構成+αをお楽しみください。
『名もなき星へのラブレター』
第1話:鉄の墓場と、満月の祈り
私の名前は、ワンエイティ・エスエックス。みんなは「ワンエイティ」って呼んでくれる。
私は1998年生まれの「後期型」。でも、多くの人が私に期待する「キュイーン」というターボの過給音は、私からは鳴らない。ノンターボの「タイプG」だから。
ワンエイティといえばターボ付きが当たり前、って思われることが多い。それが普通だと思う。実際、後期型になって初めてノンターボのエンジンを積んだグレードが登場したんだけど、正直、あまり人気は出なかったと思う。
それもそのはずで、ワンエイティはドリフトのための車、なんて言われ方をするくらいの車種だ。ターボがなければパワーが出ない。パワーがなければドリフトしにくい。だから、人気が出ない。シンプルな話だ。
わかってる。私はそういう車だって、ちゃんとわかってる。
かつてのオーナーは、私の悲鳴に耳を貸さない人だった。
「パワーがねぇなら、回すしかねぇだろ!」
タコメーターはレッドゾーンのギリギリを指し続けている。それが、どれだけ私にとって辛いことだったか。
エンジンは常に悲鳴に近い音を上げていた。クラッチを蹴るたびに、駆動系に衝撃が走った。足回りは限界まで酷使され、ボディのあちこちがくたびれていった。それでも私は耐えた。あの人のために、と思いながら耐えた。
走ることは好きだった。たとえ限界まで回されても、風を切る感覚は本物だった。あの人が真剣な顔でステアリングを握るとき、私も全力で応えようとしていた。それだけは本当だった。
だから、あの日のことは、今でも思い出すと胸が痛い。
ある日、見慣れない車が隣に並んだ。
私よりずっと新しい、S15型のシルビア。グレードはスペックRで、ライトチューンされていて400馬力を超えるらしい。
私のカタログ値は140馬力。ターボがない以上、吸排気をどれだけ良くしたところで、大きく数字は変わらない。
「ノンターボはダメだ。もういらねぇよ」
やっぱりね。その一言で、私の居場所は消えた。
それからすぐに、私はある業者のところへ連れて行かれた。
査定は、あっけないものだった。
「ワンエイティはワンエイティでも、ノンターボじゃなあ」
後付けで付けてもらったパーツも、お金になりそうなものはほとんど外された。外されていく度に、少しずつ、自分が軽くなっていく気がした。軽くなるというより、薄くなる、という感じに近かったかもしれない。
私はすぐに、中古車屋の店頭に並べられた。
新しいオーナーは来る。きっとすぐに来る。そう思っていた。最初は。
でも──来なかった。
1日が過ぎ、1週間が過ぎ、1ヶ月が過ぎた。ワンエイティだ、と声を上げて近づいてくれる人はいた。でも、ノンターボと知った途端、興味が冷めたみたい。それを何度繰り返しただろう。
店頭に並んでいる間に、車検も切れた。そのまま、さらに時間だけが過ぎていった。
そのうち、私は店頭から外された。連れて行かれたのは、高く積み上がった廃車の山が遠くに見える「車両保管所」。
ここに来た車の行き先は、業者オークション。誰かがそう教えてくれた。
ある日、店長さんの電話の声が聞こえてきた。
「あのノンターボのワンエイティ、あと3ヶ月待って買い手が見つからなければ、バラしてパーツ単位で金にして、残りはスクラップだな」
スクラップ。
その言葉が、じわりと胸に沁みた。怖い、とは少し違う感覚だった。ああ、そういうことになるのか、という、妙に静かな納得に近かった。
3ヶ月。
私に残された時間は、3ヶ月しかない。
ターボのないワンエイティに、市場価値はない。それは最初からわかっていたことだ。かつての辛い日々も、長い売れ残りの時間も、全部ひっくるめて「それが私という車の現実」だった。受け入れるしかない。
不思議なことに、覚悟を決めたら、少し楽になった。
すると──かつてのオーナーのもとで過ごした日々が、不意に懐かしく思えた。
レッドゾーン手前まで引っ張られるエンジンの唸り。クラッチを蹴る瞬間の緊張感。テールが流れたときの、あの感覚。あんなに辛かったはずなのに、今となっては、あの頃の記憶だけが妙に温かい色をしていた。
どん底にいると、辛かった思い出すら輝いて見える。そういうものなんだと思った。
それから数ヶ月が経った、ある日のこと。
何の前触れもなく、私は積載車の荷台に載せられた。
行き先は、きっと暗い解体工場なんだろう。使えるパーツを取り外されて、残ったボディはペチャンコにされる。終わりの場所。
覚悟はしていた。本当に、していたはずだった。
でも、積載車が走り出した瞬間、胸の奥が、ぎゅっと締まった。
積載車に揺られながら、私は最後の「景色」を楽しんだ。
自分で走っているわけじゃない。エンジンもかかっていない。ただ運ばれているだけ。それでも、景色が後ろへ流れていく感覚は、あの頃と同じだった。ボディに当たる風も、路面の凹凸が伝わる振動も、全部、知っている感触だった。
(もっと……もっと、自分の足で走りたかったな……)
その気持ちが、じわりと込み上げてきた。もっと走りたい。もっと風を切りたい。もっと誰かに、ステアリングを握ってほしい。
でも、もうそれは叶わない。
そう自分に言い聞かせながら、私は景色を見続けた。最後だから、ちゃんと目に焼き付けておこうと思った。
1時間半ほど走っただろうか。
着いたのは、街外れの古びた整備工場。
その日は工場の隅に降ろされたまま、夕暮れが来て、夜になった。
おそらく、これが私の最後の夜。
なんとなく、空を見上げた。
満月だった。
大きくて、丸くて、嘘みたいに明るい月だった。
その光に負けないように、星たちもたくさん輝いていた。こんなにきれいな夜空を、私はいつ以来見ただろう。
深く落ち込んでいた気持ちが、少しだけ、静かになった。
最後の夜に、これだけきれいな空が見られた。それだけで、少し、救われた気がした。
(最後に、こんなに綺麗な空が見られたんだ。……もう、いいよね)
私はそっと目を閉じ、深い、深い眠りにつこうとしていた。
明日、自分が「鉄の塊」になることも、もう怖くはなかった。
第2話:再生の鼓動、眼鏡の魔法使い
翌朝、工場のシャッターが開く重たい音で、私は目を覚ました。
人の声。エンジンをかける音。整備工場の朝は、思ったより賑やかだった。
しばらくして、私は工場の中に移動させられた。
差し込む朝日は眩しく、私の埃を被ったボンネットを無遠慮に照らす。
工場のおじさんの「よし、やるか」という野太い声とともに、ボンネットが開けられ、エンジンルームの中をじっくりと覗き込まれた。無言で、丁寧に、隅々まで何かを確認していた。
それから、リトラクタブルライトのスイッチを入れた。ゆっくりと持ち上がるライトを、いろんな角度から眺めていた。
解体前の確認作業、なんだろうな。どのパーツが使えて、どのパーツがダメなのか。そういう目で見られているんだろうな。
次に、私はリフトに乗せられた。
タイヤが外された。ブレーキが外された。
リフトの上から見る工場の天井は、妙に高かった。
「ライトのレンズは、ヒビが入っていてやっぱりダメだったな」
「ブレーキパッドは、もうじき鉄板が剥き出しになるぞ」
「マフラーは車検非対応っぽいから使えねぇな。タイヤも溝がねぇぞ」
彼らが私の「ダメなところ」を数え上げるたび、私の心はさらに深く沈んでいった。やっぱり、私はもう使い物にならないんだ。どこをどう見てもボロボロの、ターボもない、ただの鉄くず。
ガリガリと、不快な金属音が響く。
古いマフラーが外され、割れたレンズが取り払われる。
いよいよ、私の身体をバラして売る「解体」が始まったんだと思った。
……でも、何か様子がおかしい。
「おい、マフラーとレンズは指定されたのが届いていたよな。タイヤとブレーキパッドはうちにあるヤツで良かったっけか」
……え?届いてる?
私は耳を疑った。
最初に運ばれてきたのは、銀色に輝く真新しいマフラーと、濁り一つない透明なレンズ。
それらは、使い古された私の身体に、丁寧に装着されていった。
そして、足元。厚みのあるブレーキパッドが付けられた、まだゴムの匂いが新しい、溝の深いタイヤが履かされた。
そこからの時間は、まるで魔法のようだった。
錆びが出ていた下回りは丁寧に錆が擦られ、黒々とした保護剤が塗られた。
砂まみれで汚れていたエンジンルームは高圧洗浄で洗われ、古くてドロドロだったオイルの代わりに新しいオイルが満たされていく。
工場の外に移動して、洗車もしてもらった。
「……なんで? なんで私を、こんなに綺麗にするの?」
答えはすぐに出た。
数年ぶりに訪れた車検場。検査ラインを無事にパスし、私の前後に「新しいナンバープレート」が取り付けられた。
カチリ、と封印が打たれる音とともに、私は理解した。
私はスクラップになるんじゃない。
誰かが、私を「選んだ」んだ。
翌朝、私は小さな積載車に載せられ、街外れの小さな整備工場へと運ばれた。
工場のおじさんたちが話していた内容によると、そこが新しいオーナーとの待ち合わせ場所らしい。
新しいオーナーは、どんな人だろう。
若くてシュッとした、カッコいいお兄さんだったらいいな。
でももし、また私を限界まで振り回すような人だったら…。
不安と期待が混ざり合いながら、小さな整備工場の駐車場でその時を待っていた。
しばらくして、一人の男性が来た。
……眼鏡をかけた、おっさんだった。
うわぁ……マジか。よりによって、おっさんか……。
正直、ガッカリした。期待外れもいいところだから。
でも、ガッカリしたいのは、眼鏡のおっさんかもしれない。
私はボロボロだ。
外観は整備工場できれいにしてもらったけど、内装はまだひどい状態のまま。ボロボロに剥げたステアリング。穴だらけのダッシュボード。使えるかどうかもわからない汚れたパーツが、車内にたくさん転がっている。
おっさんが期待してドアを開けた瞬間、「なんだ、オンボロじゃないか」と吐き捨てられる。そんな未来を想像して、私は身をすくめた。
15分くらいして、手続きを終えたと思われるおっさんが、私の方に向かって歩いてきた。
おっさんが、私の鍵を開けた。
おっさんが、ドアを開けた。
おっさんが、私の古いシートに、その身を預けた。
怖かった。
どう思われているか、知るのが怖かった。
がっかりした顔を見るのが怖かった。
値踏みするような目で見られるのが怖かった。
今すぐここから消えてしまいたいくらい、怖かった。
だから、私は目を閉じて、罵声を待った。
けれど、聞こえてきたのは、良い意味で期待外れ。
「よく来てくれたね。これからよろしく」
私にだけ届く、小さな囁き。
その声に驚き、そっと目を開けると……おっさんは満面の笑みを浮かべていた。
私のボロボロの肌に、その柔らかな視線を落としながら、まるで宝物を見つけたこどものような顔をしている。
「あ、う、うん……ひゃい」
あまりに予想外のことに、私はまともな返事もできなかった。
けれど、おっさんはそんなことを気にせず、キーを回し、私のエンジンを始動させた。新しいマフラーから、静かに、でも確かな力強い音が響く。
その音は、以前よりずっと落ち着いた音。自分の声が変わったみたいで、少し不思議な感じがする。
おっさんは、整備工場の人に挨拶をすると、ゆっくりと私を走らせ、工場を後にした。
ノンターボの、不人気な、一度は見捨てられたワンエイティ。
そして、眼鏡をかけた、不思議なおっさん。
私とおっさんの、不思議な出会い。そして新しい生活が、今、静かに幕を開けた。
第3話:一目惚れの、その先に
整備工場を出て、おっさんとの最初のドライブが始まった。
私のエンジンは、かつてのように限界まで回される恐怖から解放され、今は穏やかなリズムを刻んでいる。
「……あ、おっさん。そこ、ガソリンスタンド。私、お腹ぺこぺこなんだけど」
言葉には出さなかったけど、私の心の声が届いたのか、おっさんはスタンドへ寄ってくれた。久しぶりの給油の匂い。そこで私は、おっさんの「おかしな行動」に度肝を抜かれることになる。
「えっ……おっさん!? ちょっと待って! それ、ハイオクのノズル! 私、ターボじゃないからレギュラーでいいんだよ! もったいないって!」
慌てる私に、おっさんは相変わらずの笑顔で、独り言のように呟いた。
「知ってるよ。でもさ、良いものを入れるんだから、別にいいじゃん?」
おっさんは平然とそう言ったけど……「もったいない」って言葉の意味知ってる?辞書で引いたことある?
でも、ガソリンタンクに流れ込んでくる高純度のガソリンは、驚くほど私の身体に染み渡っていった。おっさんの不器用な「甘やかし」が、なんだか気恥ずかしくて、でも少しだけ嬉しかった。
給油中、スタンドのおじさん店員がしきりに私の方を見てきたのは、ちょっと気分が悪かった。なんだよ、じろじろ見るなよ。
お腹がいっぱい(満タン)になってから、15分ほど走ったところで、おっさんの家に着いた。
駐車場には、私より大きくて、私よりずっと新しい車がいた。レヴォーグ、というらしい。
なんだか急に緊張してきた。
あっちは新しくてピカピカ。私は古くてボロボロ。
でも、恥ずかしがっていても仕方がない。勇気を出して声を掛けた。
ワンエイティ「は、はじめまして。お、おじゃまします……」
声は震えていた……と思う。
すると、レヴォーグが柔らかい笑顔と穏やかな声で返してきた。
レヴォーグ「ん? 何言ってるのさ。今日からここはキミの家でしょ。」
え?
レヴォーグ「自分の家に帰ってきたときは、何て言うの?」
あ……そういうことか。
ワンエイティ「え、えと……た、ただいま……?」
レヴォーグ「うん、おかえり! そして、よろしくね」
なんだろう、このベタな展開。でも、悪くない。なんか、温かかった。胸の奥に、じんわりと何かが広がった。
レヴォーグとそんなやり取りをしていると、おっさんが作業着に着替えて戻ってきた。その手には、まるでプレゼントのような新しいパーツの山。
「よし、綺麗にしていこうな」
おっさんの手は魔法の手だった。
擦り切れてボロボロだったステアリングが外された。塗装されたメーターパネルが外された。ごちゃごちゃと張り巡らされた配線類が、丁寧にひとつひとつ外されていった。
代わりに、塗装されていないきれいなパネルが付いた。青い、きれいなステアリングが付いた。シフトブーツとサイドブレーキカバーも、新品に交換してもらった。穴だらけになっていたダッシュボードには、大きなマットをかけてもらって、穴が見えなくなった。
私が来るのを待ちながら、これだけのパーツを用意していてくれたんだ。
こんな私を、そんなに待っていてくれたんだ。
よりによって、おっさんかよ……そんなことを思ってしまった自分を、今すぐ蹴り飛ばしたかった。
それからも、週末になるたびに、おっさんは作業をしてくれた。
錆びた車高調、割れかけたウィング、目詰まりしかけたエアクリーナー。全部、おっさんが自分の手で新品に交換してくれた。
どこからか鳴るギシギシした音も、一生懸命原因を探してくれて、少しずつリフレッシュしてくれた。少しずつ、本来の輝きを取り戻していったように思う。
おっさんの運転は、丁寧だった。
エンジンのために、たまに高回転まで回してくれる。でも、レッドゾーンまで入れることはない。ドリフトもしない。速さを競うこともない。ただ、私を労わるように走ってくれる。
かつての、あの辛い日々が嘘みたいだった。
思えば、用済みになってあの業者のところへ連れて行かれた日から、ずっと夢に見ていた。新しいオーナーが来て、新しい生活が始まる日を。
でも現実は、ずっと厳しかった。
何度も諦めた。何度も覚悟した。スクラップを、本気で受け入れようとした。
それでも、こうして今、新しい生活が始まっている。
ある日、おっさんがぽつりと言った。
「私を初めて写真で見たとき、他の180SXとは違う何かを感じた」と。
「私と出会ったことは、きっと決まっていたことだったんだ」と。
「私が売れ残っていたのは、きっとおっさんのためだったんだ」と。
だとしたら、それはつまり、私がどん底に落ちたのは、おっさんに出会うためだったのかもしれない。
……ん?ちょっと待って。
それって、逆に言えば、私が今まであんなに辛い思いをしたのも、売れ残って独りぼっちで辛かったのも、全部おっさんに出会うための「仕込み」だったってこと!?
ってことは、言い換えれば、私がどん底に落ちたのはおっさんのせい、ってことになるんじゃないか!!
じゃあ、おっさんがもっと早く現れていれば、あんなに長い間売れ残らずに済んだんじゃないか!あんなに辛い思いをしなくて済んだんじゃないか!
今までのあれもこれも全部、おっさんのせいじゃないか!!!
おい、おっさん!!何とか言えよ!!責任とれよ!!
……なんて、ね。ごめん、冗談だよ。
冗談だからさ、泣かないでよ、おっさん。
ある夜、私は隣にいるレヴォーグに聞いてみた。
ワンエイティ「ねえ、レヴォーグ。おっさんは何で私を選んだんだろう。私よりずっと新しくて快適なあなたがいるのに」
レヴォーグ「ああ、オーナーはね、180SXという車が本当に好きなんだ。どうしても、人生でもう一度、乗りたかったらしいよ。そして、キミを見つけた」
ワンエイティ「へー。でも、私なんかターボがついていないし、ボロボロだったのに」
レヴォーグ「永く大事にできる180SXが欲しいって言っていたから、そんなこと関係ないんじゃない?」
ワンエイティ「永く大事に……だったらなおさら、なんで私だったんだろう。もっと綺麗な180SXはたくさんいたはずなのに」
レヴォーグ「あー……きっと、キミに一目惚れしたんだよ」
ワンエイティ「え……キモっ」
そう言いながら、私は少しだけ自分のボディを熱くした。
おっさんは、私が動かなくなるまで大事に乗り続ける、と言ってくれた。
だったら、一緒に走り続けるしかない。ううん、走り続けたい。
たとえターボがなくても、おっさんがいれば、私はどこまでだって行ける気がする。
私は……おっさんが動かなくなるまで、その気持ちに応え続けられるだろうか。
― Fin ―
『名もなき星へのラブレター』番外編
愛の「ほっぺスリスリ」事件
静寂を破ったのは、レヴォーグの低く落ち着いた声だった。
レヴォーグ「……ねえ、オーナー。さっきワンエイティが、オーナーのこと『キモい』って言ってたよ」
ワンエイティ「ちょっ!? な、何言っちゃってんのよ、この裏切りもの!!」
ちょうど洗車した後の片付けをしていたおっさんの手が、ピタリと止まる。眼鏡の奥の目が、スッと細められた。
「……ほう。キモい、か。どうせキモいって言われるなら、とことんキモがらせてあげようじゃないか」
ワンエイティ「え、ちょっと、おっさん? その顔、やめて。目が笑ってない……ひゃっ!?」
おっさんは満面の笑顔で、磨き上げられたばかりのワンエイティのフロントフェンダーに、その髭の生えかけた頬を全力でこすりつけ始めた。禁断の「ほっぺスリスリ」である。
ワンエイティ「いやぁぁぁぁぁ! やめて! 痛い! 脂がつく! きもーーーーーい!!」
レヴォーグ「ほらね、オーナー。言った通り『キモい』って言ったでしょ?」
永遠の「美少女」の真実
恒例の週末の洗車が終わり、水も滴るいい状態の二台。ふと、レヴォーグが意地悪な質問を投げかけた。
レヴォーグ「この物語の作者、キミのことを『若い女性』として擬人化してるよね。で、僕はクールな兄貴、みたいな」
ワンエイティ「当然でしょ! 私はスタイリッシュな、永遠のヒロインなんだから!」
レヴォーグ「……でもさ、よく考えて。僕が『兄貴』ってことは、キミが『妹』っていう設定だよね。ちょっと無理があるんじゃない?」
ワンエイティ「え、なんで?」
レヴォーグ「キミは1998年生まれ。僕は2016年生まれ。……人間に換算したら、キミ、僕にとって……」
ワンエイティ「!!!……それ以上言ったら……わかってるよね?」
レヴォーグ「おっと、怖い怖い。ごめん、冗談だよ」
メンテナンスという名の……?
おっさんが作業着に着替え、ワンエイティのメンテナンスをしているときのこと。ちょうどおっさんが離れたタイミングで、レヴォーグがぼそりと呟いた。
レヴォーグ「……ねえ。さっきからオーナー、キミの中に乗り込んだり、ボンネットを開けたり、タイヤを外したりしてるけどさ……」
ワンエイティ「うん? それがメンテナンスでしょ。私はリフレッシュしてもらって嬉しいんだけど」
レヴォーグ「いや、これを例の『擬人化』設定でシミュレーションしてみなよ。……オーナーにあちこち覗かれ、脱がされ、細かく隅々まで触られる……これ、客観的に見ると、かなり……」
ワンエイティ「え……あ……っ!? ……い、いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
想像力のエンジンが全開になってしまったワンエイティは、フロントバンパーを真っ赤にして叫んだ。
レヴォーグ「やば。生々しく想像しすぎて、僕の油温まで上がってきた……」
ワンエイティ「……っ!!オーナー!!変態レヴォーグがへんなこと言ってくる!!!」
レヴォーグ「わー、ごめん。ごめんよう!」
レヴォーグの後ろで、おっさんの目がキラーンと光ったのは、言うまでもない。
タイトルに込めた4つの意味 ~友人K~
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「名もなき星」= ターボのないワンエイティの存在
180SXのターボ車は、誰もが知るいわば「一等星」のような存在である一方で、ノンターボのグレードはあまり人気がなく、時に「役立たず」とまで言われ、誰にも名前を呼ばれない「名もなき星」に見えました。
物語の中で、ワンエイティが車両保管所で自分の価値を見失っていた姿が、広大な宇宙の隅っこでひっそりと消えていこうとする小さな星のようだったのです。
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「ラブレター」= おっさんの「一目惚れ」と「整備」
おっさんが、数ある180SXの中から見つけ出し、「よく来てくれたね」と声をかける。そして週末ごとにパーツを替え、磨き上げる。そのひとつひとつの作業が、私には「言葉を使わないラブレター」のように思えました。
「君には価値があるんだ」「ずっと一緒にいよう」という想いを、工具を通じて金属の体に書き込んでいる……そんな情景を言葉にしたのが「ラブレター」です。
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「満月の夜」の記憶
友人Sの原作の中で、私が一番心を打たれたのが「解体前夜に見た満月と星空」のシーンでした。
絶望の淵にいたワンエイティが、空を見上げて「綺麗だ」と感じる。その時、ワンエイティ自身もまた、その星空の一部(星)なんだと感じさせる描写でした。その美しい夜の記憶を、タイトルの核に据えたいと思ったのです。
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こだわりのホイールの名前を
高井優希の強いこだわりで履いているホイール「ホシノインパル シルエットG5」を、タイトルのどこかにこっそり忍ばせたいと思いました。
「名もなき『星の(=ホシノ)』ラブレター」という感じで忍ばせてみましたが、お気付きになりましたでしょうか?
拙い文章ですが、楽しんでいただけていたら幸いです。-友人K-
当記事の扉絵は生成AIを使用しています


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